認知症対策、脳のゴミ出しと睡眠⁈
認知症は「最もなりたくない病気のナンバーワン」だそうです。65歳以上の高齢者に占める認知症患者の割合は、2020年は約5人に1人で、2060年には約4人に1人へと更に増えることが予想されています。
認知症は記憶力が低下していく病気です。しかし、それだけではありません。認知症が進行すると、身体機能も低下し、介護が必要な生活になります。2060年には65歳以上の高齢者数は日本の人口の4割近くに達すると予想されていますので、実に深刻な問題をはらんでいるのです。
認知症は脳にゴミがたまる病気!
認知症で最も多いのは「アルツハイマー型認知症」です。認知症全体の約6~7割を占めています。原因はアミロイドβという有害なタンパク質が脳にたまることで脳細胞が死滅します。アミロイドβは脳内の血管壁にも蓄積することがあり、脳出血の原因になることもあるそうです。記憶を形成する部分で、脳内で血流がもっとも豊富な部分「海馬」が萎縮することがアルツハイマー型認知症の特徴として知られています。
次に多いのが「血管性認知症」で全体の約2割を占めています。脳卒中で脳の血管が詰まるとその先の脳細胞に酸素や栄養が届かなくなり、脳細胞が死滅していきます。
3番目が全体の約0.5割を 占める「レビー小体型認知症」です。レビー小体というタンパク質が脳にたまることが原因です。
アミロイドβやレビー小体は、脳にとっては不要となったゴミ。これがアルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症の原因となっているというのが最も有力な説です。
「脳脊髄液」と脳のゴミ出し
体の細胞から出たゴミは「リンパ管」を通して排出されます。では、脳ではどうなのでしょう。実は、脳には「リンパ管」がありません・・・といいますか 、「無い」と思われていました。
2015年に髄膜にリンパ管があることが実証されました。髄膜は頭蓋骨の下にある膜で実質(脳ミソ)を包んでいます。一方で、脳実質にはリンパ管は存在しません。では、脳実質のゴミは、どのように髄膜のリンパ管へ運ばれていくのでしょう?
体内のゴミは液体に溶かした状態で腎臓を通じて排出されます(溶けないゴミは大便で排出されます)。脳では、腎臓と同じように、ゴミを液体に溶かして排出します。脳がゴミを溶かすための液体として利用するのが「脳脊髄液」です。脳脊髄液は、血液から血球などの成分が取り除かれた「血漿」から調節されて作られます。
脳脊髄液には他のはたらきもあります。脳実質は、豆腐が水のはられたパックの中に浮いているように、脳脊髄液の中に浮いています。脳の重さは約1400ℊあるのですが、浮力がはたらくために約50gになるのだそうです。このため脳は衝撃に耐えることができます。
脳脊髄液を主に作っているのは、「脈絡叢(みゃくらくそう)」と呼ばれる毛細血管で構成された部分で、脳の中心部に位置する「脳室」に在ります。
脳脊髄液は脳内に130mlほどあり、1日に3~4回入れ替わっています。つまり、1日に450mlから500mlがつくられることになります。かなりの量ですよね。
脳実質にはリンパ管は存在しないのですが、リンパ管の代わりになるものがあります。それは、脳の動脈や静脈の血管の隙間です(血管周囲腔)。脳脊髄液はこの隙間を流れて脳実質を出入りし、その際にゴミを一緒に運び出すと考えられています。
なぜゴミは脳内に溜まるのでしょう?
「脳にゴミを排泄するしくみがある」ということは分かりましたよね。では、なぜゴミを排泄するしくみがあるにもかかわらず、脳内にゴミが溜まってしまうのでしょう?
この答えは「ゴミを出すタイミング」にあるようです。脳のゴミは寝ている間に出されるそうで、つまり、睡眠が浅いとか、夜中に何度も目覚めるなど良い睡眠がとれないと、うまくゴミを出すことができなくなるのです。グッスリ眠れた朝は頭がスッキリしていますよね。脳の掃除が上手くいった証拠でしょうね。
今できる認知症対策
アルツハイマー型認知症では脳にアミロイドβがたまり始めるのは、認知症を発生する20年も前からだそうです。
「いや~最近、アミロイドβがたまり始めたなぁ~」・・・なんて分かればいいですよね。でも、そうはいきません※。現在できる対策は「記憶の衰えに早く気付く」ことしかありません。(※現在、アミロイドβのバイオマーカーの開発が進んでいて、今後は早い段階で分かるようになるかも知れません)
軽度認知障害(MCI)は、認知症の前段階で起こる記憶障害です。ここで対策をとることができれば、1割から4割くらいの方が健常な状態へ回復することが可能だそうです。(物忘れが気になる方は、このサイト内の「物忘れチェックシート」をお試しください)
ゴミ出し時間を確保するために、日頃から良質な睡眠をとるようにしましょう。規則正しい生活や、日中の身体活動が大切です。体を動かしたり、散歩をしたり、筋トレをしたりするなどしましょう。ストレスも減らしましょう。
脳のゴミ出しという観点から、脳の血管を健康な状態に維持することは大切でした。健康な血管のためには、良い血流維持が大切です。このことは 『血圧が気になる方への「血管ケア」のススメ』で説明させて頂いている通りです。認知症予防は早い段階から取り組むことをお勧めします。
(薬剤師)